コニャック放浪修行記
コニャックに3度目の訪問にて醸造所、蒸留所での修行の夢がやっと叶った。
外が真っ暗な早朝からビール醸造場でモルトをミックスして麦汁を仕込む。
午後は稼働中の蒸留所でグランマルニエのベースとなるコニャックのカットのタイミングを香りを確かめつつ教えてもらったりと新鮮な学びの連続だ。
行きたい蒸留所の訪問も友人を通して予約が取れコニャックでPink Pepper Ginを作っているAdamusともゆっくり話す事ができた。小さな蒸留所はまるでアーティストの家のよう。暖炉の足元から壁は天井までボトルや試作品が所狭しと並び、壁に設置されたガラス製の古い大きな蒸留機が心地良くコポコポ音を立てていた。
人懐っこい笑顔で迎えてくれたAdamusに来月パリで僕のクラフトコーラを発表するんだと言うと“僕もこの前作ってみたんだよ”というから驚いた。何度も追記された楽譜のようなレシピを持って来てくれて、立ったままページを素早くめくっていく様は科学者のようでもある。
「これはコカコーラを良く飲む彼女用に作ったんだよ、子供が来た時なんかも重宝するからね。」レシピを見せてもらうと僕の使っていないチコリやトンカを加えていて実に興味深い。写真を撮りたい気持ちを理性で押し殺す。逆だったらちょっといやだもの。味はスパイシーで複雑ながら調和が取れている。シナモン、トンカ、バニラのアクセントの強弱が絶妙だ。
その後はパルミジャーノのグルタミン酸とケッパーその他を抽出したUmamiジンと彼の代表作でもあるFRACTAL2.0を飲ませてもらった。Umamiは一言で言うなら海を感じるジン。微かな塩味のせいだろう。
FRACTALはバラのような香りがするので聞けばゼラニウムの葉を抽出してという。庭にあるよというので思わず外に飛び出してしまった。玄関の両サイドにある鉢がそうだというので葉をこすって鼻を近づけて見る。
芳しいバラの香りにため息が出る。因みにこのお酒はベーススピリッツがこのゼラニウムなのでどのカテゴリーにも入らないのだという。なんだかそれもカッコいい。
楽しい時間は瞬く間に過ぎ外出禁止の18時まであと20分、家までは35分なのでもうアウトだ。帰りの高速は混んでいる中皆急いでいてタイムレースをしているかのようだった。
さて、今回宿泊先を提供して下さったのはフシニャックという村で何代も続くコニャックの名家ピナール家のおばあちゃんだ。
今回の研修中の影の立役者がこの方、用意してくれる毎日のご飯が美味しすぎたのだ。
ある日のアペリティフ
-自家製のオーガニックワインと自家製ニワトコのシロップのホワイトキール
-当主のおじいちゃんが仕込んだ50年もののピノデシャラント
ある日の前菜
-友人作の鹿のテリーヌ
-燻製ニシンのオイル漬け
-鱈とジャガイモニンニクピューレ
ある日のメイン
-親戚の養豚場のブタさんのブイヨン煮
-ウサギとジロールのロティ
-仔牛のパスタ
-フォンドールとシャルキュトリー
-アンディーブとベシャメルソースのオーブン焼き
ある日デザート
-自家製ビールのクレープ
-コニャック風味の自家製キャラメル
-自家製リキュールを入れたおばあちゃんのオレンジマーマレード(ジャム作り始めて50年のその味わいは生涯最高のものでした)
僕が美味い美味いと彼女の料理をあまりに褒めるのでいくつかレシピを伝授していただいた。コロナが落ち着いたら友人に振る舞うのが楽しみだ。
おばあちゃん曰く50年前はこの辺りは夏でも涼しく白ワインのアルコールも6度から8度までしか上がらない事もあったとか。アペロや食前酒にはかえって丁度良くシーフードと頂くと止まらなくてねえと目を細めておられた。こんな感じで毎晩夕食を囲みながら今日は何をしたのかとかどこに行ったのか、この料理はどう作るのんだなど、昔話を交えて沢山のお話させて頂いた。
以前は僕も沢山のお酒の本を読み勉強していて頭でっかちな時もあったのだけど好きなお酒の土地に身を置きその土地の人を通して地の食や文化に触れると同じお酒や食文化も全く違った視点から見られるようになるので面白い。
フランス人がクレープをお皿の上でくるくると巻き、たっぷり塗ったジャムをこぼさず上手に食べている様はフランス生活が長くなった今でもどうやっているのか未だ良く解らないけれど。
↓3/1より先行予約を行うフランス発クラフトコーラ 15、よろしくお願いします!
2021/2/28