PARIS RIO STORIES

外出禁止令を機に書き始めたパリのバーマンのお話。

コニャック放浪修行記

コニャックに3度目の訪問にて醸造所、蒸留所での修行の夢がやっと叶った。

 

外が真っ暗な早朝からビール醸造場でモルトをミックスして麦汁を仕込む。

午後は稼働中の蒸留所でグランマルニエのベースとなるコニャックのカットのタイミングを香りを確かめつつ教えてもらったりと新鮮な学びの連続だ。

 

f:id:Rio_Ohashi:20210228193343j:image

 

行きたい蒸留所の訪問も友人を通して予約が取れコニャックでPink Pepper Ginを作っているAdamusともゆっくり話す事ができた。小さな蒸留所はまるでアーティストの家のよう。暖炉の足元から壁は天井までボトルや試作品が所狭しと並び、壁に設置されたガラス製の古い大きな蒸留機が心地良くコポコポ音を立てていた。

 

f:id:Rio_Ohashi:20210228195556j:image

 

人懐っこい笑顔で迎えてくれたAdamusに来月パリで僕のクラフトコーラを発表するんだと言うと“僕もこの前作ってみたんだよ”というから驚いた。何度も追記された楽譜のようなレシピを持って来てくれて、立ったままページを素早くめくっていく様は科学者のようでもある。

 

f:id:Rio_Ohashi:20210228202750j:image

 

  

「これはコカコーラを良く飲む彼女用に作ったんだよ、子供が来た時なんかも重宝するからね。」レシピを見せてもらうと僕の使っていないチコリやトンカを加えていて実に興味深い。写真を撮りたい気持ちを理性で押し殺す。逆だったらちょっといやだもの。味はスパイシーで複雑ながら調和が取れている。シナモン、トンカ、バニラのアクセントの強弱が絶妙だ。

 

 

f:id:Rio_Ohashi:20210228193230j:image

 

 

その後はパルミジャーノのグルタミン酸とケッパーその他を抽出したUmamiジンと彼の代表作でもあるFRACTAL2.0を飲ませてもらった。Umamiは一言で言うなら海を感じるジン。微かな塩味のせいだろう。

 

 

FRACTALはバラのような香りがするので聞けばゼラニウムの葉を抽出してという。庭にあるよというので思わず外に飛び出してしまった。玄関の両サイドにある鉢がそうだというので葉をこすって鼻を近づけて見る。

 

芳しいバラの香りにため息が出る。因みにこのお酒はベーススピリッツがこのゼラニウムなのでどのカテゴリーにも入らないのだという。なんだかそれもカッコいい

 

f:id:Rio_Ohashi:20210228192651j:image

 

楽しい時間は瞬く間に過ぎ外出禁止の18時まであと20分、家までは35分なのでもうアウトだ。帰りの高速は混んでいる中皆急いでいてタイムレースをしているかのようだった。

 

さて、今回宿泊先を提供して下さったのはフシニャックという村で何代も続くコニャックの名家ピナール家のおばあちゃんだ。

今回の研修中の影の立役者がこの方、用意してくれる毎日のご飯が美味しすぎたのだ。

 

ある日のアペリティフ

-自家製のオーガニックワインと自家製ニワトコのシロップのホワイトキール

-当主のおじいちゃんが仕込んだ50年もののピノデシャラント

 

ある日の前菜

-友人作の鹿のテリーヌ

-燻製ニシンのオイル漬け

-鱈とジャガイモニンニクピューレ

 

ある日のメイン

-親戚の養豚場のブタさんのブイヨン煮

-ウサギとジロールのロティ

-仔牛のパスタ

-フォンドールとシャルキュトリー

-アンディーブとベシャメルソースのオーブン焼き

 

ある日デザート

-自家製ビールのクレープ

-コニャック風味の自家製キャラメル

-自家製リキュールを入れたおばあちゃんのオレンジマーマレード(ジャム作り始めて50年のその味わいは生涯最高のものでした)

  

僕が美味い美味いと彼女の料理をあまりに褒めるのでいくつかレシピを伝授していただいた。コロナが落ち着いたら友人に振る舞うのが楽しみだ。

 

おばあちゃん曰く50年前はこの辺りは夏でも涼しく白ワインのアルコールも6度から8度までしか上がらない事もあったとか。アペロや食前酒にはかえって丁度良くシーフードと頂くと止まらなくてねえと目を細めておられた。こんな感じで毎晩夕食を囲みながら今日は何をしたのかとかどこに行ったのか、この料理はどう作るのんだなど、昔話を交えて沢山のお話させて頂いた。

 

以前は僕も沢山のお酒の本を読み勉強していて頭でっかちな時もあったのだけど好きなお酒の土地に身を置きその土地の人を通して地の食や文化に触れると同じお酒や食文化も全く違った視点から見られるようになるので面白い。

 

f:id:Rio_Ohashi:20210228193108j:image

 

フランス人がクレープをお皿の上でくるくると巻き、たっぷり塗ったジャムをこぼさず上手に食べている様はフランス生活が長くなった今でもどうやっているのか未だ良く解らないけれど。

 

↓3/1より先行予約を行うフランス発クラフトコーラ 15、よろしくお願いします!

www.ulule.com

 

2021/2/28

 

 

 

 

ボトリングカクテルのためのフレッシュジュースの再構成 by Remy Savage

コロナ渦にバーマンとして今何ができるか?

パリは今週末から18時以降外出禁止が発令されますます厳しい状況にあります。
日本も多くの都市で緊急事態宣言が発令されていると聞いております。バーテンダーの中にはバカンスを取られる方もいらっしゃればこの間にボトリングカクテルに挑戦したいと思っている方も少なくないと思います。

 

昨日パリ、ロンドンで活躍しているバーマン・レミー・サヴァージュボトリングカクテルを作る際にネックとなるフレッシュジュースの安定性に関する記事をシェアしておりましたのご紹介させて頂きます。読み易くするため一部解釈を入れた訳となっておりますのでご了承ください。私事ですが僕自身、コンクールを除くと約10ヶ月もシェーカーを振っていません。バーマンとして砂を噛むような悔しい思いは嫌というほど経験しており、それでもこの職業を続けるのかというところの瀬戸際におります。きっと同じような境遇の方もいらっしゃるのではと思いこの記事が少しでも助けになればと書かせて頂きました。

 

ボトリングカクテルのための安定したフレッシュジュースの再構成 by Remy Savage

f:id:Rio_Ohashi:20210115214934j:plain

 

現在バー業界はデリバリー/ テイクアウト(ボトリングされた)カクテルに依存しており賞味期限を伸ばす必要がある為、バーマンの多くは人工的な酸を使っています。その際無視できない問題として”人工的な酸”のブレンドはフレッシュジュースほど美味しくないという事です。 味(塩/砂糖/酸味など)は再現可能かもしれませんが、香りは再現できません。

 

私たちはこの問題の解決法に取り組んできました。高性能なマシーンと労力が必要なためすべての人に役立つとは限りませんがそれでも興味深いものだと思います。私たちはこれををrecomposition (リコンポジション:再構成)と呼びます。そう呼ぶ事でシリアスに聞こえますしノーベル賞モノの発見に聞こえるでしょうw

 

核となるアイデアは、減圧蒸留によって新鮮なプロダクトの芳香化合物を分離することです。これを新鮮なプロダクト自体の糖度、塩味、酸性度などを再現する溶液のベースとして使用します。

f:id:Rio_Ohashi:20210115215106j:plain

 

今回はライムジュースのケースを考察していきましょう。

<ライムジュースのリコンポジション>

まず600mlのライムジュースを絞ります。

f:id:Rio_Ohashi:20210115215358j:plain

 

次に摂氏42度と30ミリバールで蒸留します。

500mlのライムジュース蒸留液を集めて下記を材料を加えます。

クエン酸 20g

リンゴ酸 8g

アスコルビン 2g

フルクトース 4g

塩 0.5g

f:id:Rio_Ohashi:20210115215140j:plain

 

これで蒸留のおかげでアロマの問題は解決、残りは味とテクスチャーのみ。素晴らしいでしょうw?

 

単純な酸性溶液よりもフレッシュジュースに限りなく近く、非常に安定しており4か月前に作った溶液も今日作ったリコンポジション・ライムジュースとほぼ違いがありません。

 

f:id:Rio_Ohashi:20210115215122j:plain

 

ライムの自然な香りを機械を使って保存しているのでこのインフィニティ・ライムジュース(訳:無限ライムジュース!)でマルガリータをバッチ販売することができます。

 

現在バーマンの私たちが直面している大きな問題は柑橘類の世界生産の40〜60%が無駄になってしまっている事です。理論的にはめちゃ大きい蒸留器を使って売れ残った柑橘類のすべてをリコンポジョン・ジュースとしてバーシーンで利用可能となります。

P.S. コロナ渦だけどみんなどうしてる?

あとがき

いかがでしたでしょうか、ボトリングカクテルの問題点のソリューションだけでなく廃棄されるフルーツの問題解決も見据えたノーベル賞モノ?な記事だったと思います。

 

僕自身が進めている3月1日ローンチ予定のフランス産クラフトコーラのプロジェクトでも一部同じソリューションを取り入れております。日本へのプロジェクト発表も見据えて現在サンプルを試していただける日本のバーマンの方を募集しておりますので興味がございましたら是非DMにてご連絡ください。

 

まだまだ大変な時期が続きますが希望を失わず生きていきましょう!最後に最高なタイミングでの素敵な投稿をありがとうレミー!

Enfin, merci Remy pour ton merveilleux post !! J'éspere que ton idée aidera pour les barmans japonais qui feront des cocktails mis en bouteille !!

15/01/2021 Ryo Ohashi

原文 by Remy Savage

Introducing, Basic recomposition -

Ok here is something I have been working on for a while:

At the moment most of us rely heavily on delivery/ takeaway cocktails (and therefore the necessity of increasing shelf life) so we have all been using a larger amount of artificial acids.

Now the unquestionable problem it raises is that a blend of acids is just not as tasty as fresh juice. It may reproduce the “taste” (salt/sugar/acidity ect...) but it does not have any “aroma” (if we simplify; what you can smell).

Zetta and I have been working on a way to fix this, it may not work for everybody as you need some advanced machinery and a lot of effort BUT it is still interesting.

We call it recomposition as it sounds serious and I ear to get a Nobel price you need to be serious.

How to recompose/

The core idea is simply to isolate the aromatic compounds of fresh products trough vacuum distillation, use this as a base for a solution that reproduces the sugar/salt acidity (ect..) of the fresh product itself.

Here is how it works with lime:

Recomposed Lime Juice

Squeeze 600ml of lime juice

Distill it @42 celsius & 30mbars

Collect 500ml of lime juice distillate And add:

20g citric acid

8g malic acid

2g ascorbic

4g fructose

0.5g salt

Here the distillate is responsable for the aromas, the rest is responsible for taste & texture. Nifty right?

Why recompose?

Results are infinitely closer to fresh juice than a simple acid solution AND It is very stable (just tried a 4 months old solution and it is rather consistent with the recomposed lime I did today).

We have mechanically preserved the natural aroma of lime and you can therefore batch amnd sell your margarita with this infinity lime juice and it will taste right.

Now the very cool thing is at a large scale. We know that 40-60% of the global production of citrus ends up being wasted, in theory (and with a very very big rotavap) we could imagine all unsold produced citrus being recomposed, meaning we could all work in season with fresh and off season recomposed.

How is everybody else’s lockdown btw?

1886年のレシピを基にオーガニックコーラを作ってみる<調合編>

🗼をポチッと頂けるとブログランキングに点数が入ります。よろしくお願いします!

9種のオイル、3種のスパイスをいざ調合

f:id:Rio_Ohashi:20200711180241j:plain

オーガニックコーラの材料

<準備編>の1886年のレシピを基に下記の材料を分量通り調合していきます。計量用に置き型のシリンダーがあると便利です。

 

< ステップ1>フレーバーオイルミックスを調合する

5.0ml シシリアオレンジオイルBIO

5.0mlライムオイルBIO

2.0ml レモンオイルBIO

4.0ml シナモンオイルBIO

2.0ml ナツメグオイルBIO

 1.0ml プチグレンオイルBIO

0.5ml コリアンダーオイルBIO

0.5ml ラベンダーオイルBIO

0.5ml クローブオイルBIO

 

f:id:Rio_Ohashi:20200708083636p:plain

 

今回購入した全てのオイルがBIO規格でした。

よって今回作るコーラは「オーガニックコーラ」と呼べるかもしれません、いや呼んでしまいましょう!

オイルを調合していくと果物やスパイス、花を煮詰めたような複雑な香りが部屋中に立ちこめます。むせ返るような香気で以前、香水の調合をさせてもらった時の記憶が蘇ってきました。

「パフューム」という映画を見て香水調合師の仕事に興味を持った僕は夏休みにイタリアのチンクエテッレへ向かう道中、「香水の都」グラースに立ち寄りました。

 

f:id:Rio_Ohashi:20200711082432j:plain

香水の都「グラース」

プロヴァンスと聞いて海沿いを想像していましたがグラースはカンヌの少し北、山合いの中にありました。派手さは無いですがどこか華やかなな街を歩くとどこからともなく果物やハーブ炊いたような香りがしてくる幻想的な佇まいの街でした。

ちなみにフランスの香水の50%、世界も香水に約10%がこの街で作られています。

フラゴナールという香水工場に調合体験に行ったのですが体験とは名ばかりで100種類を超える香りの中から20の香りを選んで調合していく作業はかなりの集中力が必要とされる本格的なものでした。

香水の調合はほんの数ミリリットル、違う香りを加えるだけで印象が大きく変わります。

今回の手作りコーラに加えるラベンダー、コリアンダーを加える発想もその時の経験が生きています。

f:id:Rio_Ohashi:20200711052558j:plain

グラースでの香水調合体験

< ステップ2>フレーバーエミルションを作る

21ml フレーバーオイルミックス

40ml 水

20g アラビアガム

2滴 ウォッカ

アラビアガムは溶けにくいのでアルコール2滴と水を混ぜた後に少しずつ水を加え3分ほどブレンダーで混ぜ合わせてください。

 

< ステップ3>濃縮コーラを作る

25ml フレーバーエミルション

75ml ダークキャラメルシロップ

70ml 水(コーラナッツ10g、バニラ1本、グリーンカルダモン10g、メイス5gを煮出したもの)

f:id:Rio_Ohashi:20200711062201j:plain

濃縮コーラ

今回初めて扱った食材の中にコーラナッツがあげられます。エルボリストには5分煮出して3分インフューズするようにと教えてもらいました。コーラナッツのティザンヌはいわゆる眠気防止や空腹を抑えるコーヒーのような効能が期待される飲み物としての位置付けのようです。

言われた通り鍋で煮出し段々とコーラのような良い香りがしてくるのを瞬間を待ちました。ところが全く何の匂いもしてきません。一瞬鼻が利かなくなるという流行病にかかったのかと疑ったくらいです。残っているバニラの匂いを嗅ぎ自分の嗅覚を確認してしまいました。(そしてホッとしました。)

10分近く漬け込んだ後、味見をしてみると余韻に微かな収斂性(しゅうれんせい)を感じます。細かいタンニンを感じるようなワインと山椒の中間のようなヒリヒリとする余韻、苦味とも呼べるようなレッドブル、コーラの後口と同じようなニュアンスがあります。

コーラナッツにはコーヒーの倍近くカフェインとタンニンが含まれているようなのでおそらくその成分なのでしょう。味見を繰り返しているとなんだか頭が冴えてきました。

 

f:id:Rio_Ohashi:20200711042607j:plain

コーラの実をバニラと煮出す

< ステップ4>コーラ シロップを作る

10ml 濃縮コーラ

120ml 水

180g 砂糖

水の代わりにバニラとコーラナッツを煮出して減圧蒸留したものを加えてみました。煮出したままのもの、真水でも問題はありません。

f:id:Rio_Ohashi:20200711061731j:plain

バニラとコーラナッツを減圧蒸留

< ステップ5>完成

30ml コーラシロップ

190ml ソーダ水

10ml ライムジュース

 

長い下準備もようやく終盤を向かえました。

シロップが冷蔵庫で冷めるまで待ちきれ無いのでボトルごと氷で冷やし時を待ちます。

グラスを冷凍庫で冷やしてフランスでは貴重なかちわり氷を用意していざテイスティング。

 

f:id:Rio_Ohashi:20200711063107j:plain

コーラシロップの完成
テイスティング

冷めたコーラシロップ30mlグラスに入れ、キンキンに冷えたペリエを注ぎ、ライムを絞ります。シロップが沈むのでよく混ぜてからいただきます。

香りのアタックはシナモンが支配的。

一口飲んでみるとクローブやナツメグのスパイス、ビターシトラスが混然一体となって現れます。アメリカの飲み物というよりはモロッコ料理のようなスパイシーさ、プロヴァンスをイメージさせるフローラルさ、なんだかとっても地中海を感じます。思えばほとんどの材料がフランス産なので当然かもしれません。

飲んだ後に鼻に抜ける50秒を超えるアフターの長さは30年物のウイスキーのよう、改めてエッセンシャルオイルの香りの濃縮感を感じます。

口当たり、香りの抜け方、ナチュラルなテイスト、甘さに関しては予想以上の出来。

様々なアロマが鼻から抜け夢心地の中、たまにひょっこり顔を出すコカコーラ感がたまりません。

シナモンが立ち過ぎていたり今後レシピ調整は必要ですが未来のお店の看板商品となるオーガニックコーラの誕生を予感させる第一作目となりました。

今後は以前の香水の調合にも使ったグリーントマトオイルや日本の山椒や青じそ、その他フランスの面白いスパイスなどを使いオリジナルの極上レシピを見つけていきたいと思います。

興味がある方は是非ご自身でも挑戦してみてください。パリにお越しの際はお声かけいただければフランス産オーガニック手作りコーラをご用意出来るかもしれません!

それでは良い一日をお過ごしください。

 

2020年 7月11日、パリ

f:id:Rio_Ohashi:20200711070113j:plain

手作りコーラ第1作目

🗼をポチッと頂けるとブログランキングに点数が入ります。よろしくお願いします!

 

1886年のコーラのオリジナルレシピを元に自家製コーラを作ってみる<準備編>

🗼をポチッと頂けるとブログランキングに点数が入ります。よろしくお願いします!

 

パリのレストランの再開とバーの物件探し

ロックダウンも6月に解除され勤務するサンジェルマンデプレのレストランもようやくテラス営業のみという形で再開しました。

ところが7月に入っても招集がかからないのでマネージャーに連絡したところ”バーマンは9月までお休み”とのサプライズ休暇を頂いてしまいました。

急に時間が出来たのでパリ市内の空き店舗物件を探しに不動産巡り。
ロックダウン中に閉業したお店も多く希望に合う物件も見つかるかもしれません。

減圧蒸留機の購入をきっかけに蒸留の興味も沸き、スイスでお会いしたMitosaya蒸留所の江口宏志さんの本を読んでいると ”蒸留所併設のバーができたら楽しいなあ” などとまだあまり現実味の無い絵を描きつつ自転車でパリを廻っています。

パリで蒸留酒、カクテル等をサービスする場合はライセンスIVと言われる特別な許可が必要になります。ライセンスIV付きの物件にはカフェなども含まれ、紹介された物件の中には街に馴染んだ古いカフェもなどもありました。

いずれも立地が悪く諦めましたがクラシックな雰囲気を残す店舗はとても魅力的で自分でお店をやる際は、地元のお客様に愛される街に溶け込んだお店にしたいと考えるようになりました。

f:id:Rio_Ohashi:20200708062512j:plain

実際に紹介された19区のカフェ

カフェタイムでも価値のある物を提供したい

パリには本当に沢山のカフェがありますが有名どころは観光地のようになっており(人間観察などそれはそれで楽しいのですが)美味しいコーヒーが飲めるお店や地元パリジャンが集まるお店はちょっと隠れたところにあります。

物件を探している11区には小さな飲食店が集中しており、そこに集まる若者はおしゃれで新しいものが大好き、あまりにもクラシックで華美な誇張されたもの嫌うようなBOBO(ボボ:ブルジョワ・ボヘミアンの略)と言われる人たちです。

ワインで言うならクラシックなボルドーワインより規格外の新生ナチュラルワインを好むような、ランチはホテルリッツに行くより地元カフェのブランチの方が楽しいから好きといった人種かもしれません。お金より愛と喜びのZAZの「Je veux」の世界のような。

僕自身、ワインもそうですが作り手の顔が見えるものが大好きです。
自分でお店をやる際にはカクテルはもちろんソフトドリンクも手作り感のあるものを提供したい、コーヒーやパティスリー、そうコーラも作ってみよう!そんなインスピレーションから門外不出と言われるコーラのレシピを探る一週間が始まりました。

f:id:Rio_Ohashi:20200708094520j:plain

パリBELLE VILLEにて

1886年のコーラ・オリジナルレシピを検証

コーラは1886年に薬剤師によって作られたコカの葉の成分を含む薬効のあるドリンクだったようです。現在のレシピとは大分違うようですがまずはその起源に迫ります。

下記の写真は1979年にアトランタジャーナルに掲載されたコーラの起源となるレシピです。新聞掲載当時は”コーラのレシピが暴かれた”とずいぶんと話題になったとの事。コカの成分は当時の流行病であったマラリアのへの薬効も期待されていようです。
主なレシピは下記の通りです。

 

コカシロップ

水、砂糖、クエン酸、バニラ、カフェイン、ライム、コカ抽出物、カラメル

7Xフレーバー(エッセンシャルオイル)

オレンジ、レモン、ナツメグ、コリアンダー、ネロリ、シナモン、アルコール

 

f:id:Rio_Ohashi:20200708080402j:plain

フレンチコカワイン?

上の写真をSMSでシェアしたところフランス人から ”世界初のコーラはコルシカ発で当ワインとリキュールを使ったものだったんだ。その後そのレシピを元にアメリカ人が手を加えコーラを作ったんだ” とご当地自慢入りの有益な情報メッセージを頂きました。

早速調べてみるとありましたフレンチコカワイン
1863年にコカの医学的および経済的可能性に興味をそそられたコルシカの医者マリアーにさんが”ヴァンマリアーニ”と言う名前で発売した今でいう栄養ドリンク。ボルドーワインとコカをベースに健康、強さ、エネルギーの回復薬として売り出したようです。

 

材料集めにパリを奔走

エッセンシャルオイル

当時のレシピを元に早速材料集め開始です。

エッセンシャルオイルは全てパリのAROMA ZONEで揃えました。

ネットでも買えますが実際に香りを確かめてから購入したいのでODEONの実店舗まで買いにい行きました。いつ行っても手作りのオーガニックコスメやアロマを作ろうとパリのおしゃれな女子でいっぱいの人気店です。

実際にコーラを作ってみようという方はオイル購入の際には食品グレードである事を確認してください。フランス語表記の場合「Alimentaire possible」と明記されていれば大丈夫です。

f:id:Rio_Ohashi:20200708095124j:plain

AROMA ZONE

次に探しに行ったのはアラビアガム、カフェインパウダー、キャラメルです。

アラビアガム

当時のレシピのままだと現代のオイルの抽出技術が当時より上がっているので薬っぽくなる為、調整が必要なようです。

その中でもアラビアガムは乳化剤および”とろみ”を出し口当たりを良くするものとして少量加えたいと思います。

グレードの高い植物由来のアラビアガムを探しにまずはパリ2区のG.Detouへ。
マニアックなパティスリー用の材料はほぼここで揃います。お店の方に聞くと直ぐに出してくれました。パティスリー用ですのでもちろん粉末になっています。

因みにこの界隈は「MORA」や「A.SIMON」と言ったパティスリー用の製品のお店が沢山ありお菓子作りが好きな方は見て歩くだけでも楽しいと思います。また料理本しか置いてないスペシャルな本屋さん「LIBRAIRIE GOURMANDE」もその先にありますのでプロの方は必見です。

f:id:Rio_Ohashi:20200708182729j:plain

プロ御用達のパティスリー用品店「G.Detou」
カフェインパウダー

次に探したのはカフェインパウダーです。

こちらは微かな苦味を加える為使いたかったのですがどのお店に聞いても「プードゥル・ドゥ・キャフェインん !?」と驚かれてしまいました。ネットでタブレットなどは売られているのですがあまり一般的では無いようです。

コーラにカフェインを加えている意図を調べたところ、カフェインに含まれる微かな苦味は他の味と混ざることにより味全体を複雑にし、甘さを引き立てる作用があるためとの事でした。丸ごと食べる川魚のあの苦味と味の複雑さと味の調和、カフェイン抜きのコーラの物足りなさはそういう事かと腑に落ちました。

さて、無い物は無いで仕方ありません。苦味についてはニガヨモギ、あるいはセンブリか何かで代用する事にしましょう。そのほうが自然ですし、手作り感があってしっくり来ます。

 

リン酸

コーラのみならず多くの清涼飲料水に含まれているものに「リン酸」があります。

「炭酸飲料を飲むと骨が溶ける」という噂の元になっていた物質が、まさにこの「リン酸」です。腸内でカルシウムと結びつき、その吸収を阻害してしまうのです。骨が作られにくくなり、むしろ溶け出す方向へとバランスを傾けます。
 
リン酸が使われる理由は、大手飲料メーカーの元社員によると「糖類を高濃度で含む液体は保存性が高いのですが、糖を減らすと雑菌が繁殖しやすくなるので、製品の酸性を強くする必要があり、安価なリン酸が『酸味料』という名目で使われます」とのこと。
今回は安心して飲める自然なコーラを作りたいので搾りたてのライムジュースで代用です。
 
キャラメルシロップ

キャラメルであのコーラのダークカラーを作ります。今回は味の変数を減らすため購入しました。砂糖と水で作れて焦がし具合も調整できるのでいずれは自家製キャラメルで挑戦です。

 

コーラの実

カフェインの代わりとなるナチュラルなもの、考えた結果ここはコカコーラのオリジナルに忠実にコーラの実を使う事にしました。

コーラの木の実は「コーラナッツ」と呼ばれ、昔のコカコーラの原料です。

コカコーラの名前も「コカの木」の葉から抽出された成分と「コーラの木の実」の抽出液から作られる為「コカ&コーラ」と命名されました。

 

あまり日本では知られていない気がしますがフランスには日本の漢方のように薬草(ハーブ)の効果は古代よりその有効性が認められ実生活に溶け込んでいます。

眠れない夜はヴェルヴェーヌやカモミールのティザンヌを飲み、風邪を引いたかなと思ったらタイムを煎じる。火傷にはラベンダーの軟膏を塗り、切り傷にはローズマリーの精油を一滴といった感じに親から子へ受け継がれる生活の知恵となっています。

医療の世界においても1940年頃までは植物療法が主流でした。全盛期には「エルボリストリー」という薬草専門店がフランス全土に約2万軒あり、国家資格を持つ薬草専門家「エルボリスト」が数百もの薬草を調合して販売していました。

しかし1941年には法改正でエルボリストの国家資格が廃止。1950~1960年代に化学療法が全盛期を迎えると、伝統的なエルボリストリー は現象の一途を辿ります。植物療法の衰退に伴って、フランス人のティザンヌのイメージも「お年寄りの飲み物」、「時代遅れの古めかしいもの」と受け取られるようになっていきました。

 

ところが2000年に入り健康志向の高まりと植物療法への回帰によりフランス人のティザンヌへの興味や関心は回復。カフェインや砂糖を含まないことが好まれて若い世代でも消費が伸びています。

今回使用するコーラの実もパリ最古のエルボリストリー 「Herboristrie de la Place Clichy 」で購入しました。白衣を来た女性のエルボリスト達がお客の症状や要望を伺いハーブを調合する様はまさに薬剤師さんそのもの。ドラクエ全盛期に少年時代を過ごした僕には薬草を扱う仕事など特に神々しく見えてしまいます。

 

これでようやく全ての材料は揃いました!

調合編」に続きます。

 

f:id:Rio_Ohashi:20200709073141j:plain

パリ最古のエルボリストリー

参考:ロハスメディカル、ルピシア

 

🗼をポチッと頂けるとブログランキングに点数が入ります。よろしくお願いします!

 

🇫🇷現地より〜デザイナーとレストラン界のソリューションを考える。

f:id:Rio_Ohashi:20200515062431j:image
5/11に部分的に外出が可能になりレストランの再開が待たれるフランス。デザイナーがソーシャルディスタンスを保ちながらサービスが可能な釣鐘型のアクリル製バイザーを考案した。


それぞれの人が独立していて視野を広く保てるようになっており大きく開いた後部は着席の際の利便性と息苦しさを与えないように設計されている。

f:id:Rio_Ohashi:20200515062552j:image

Plex’Eat (プレクシート: プレクシガラス+イートの造語)というこのプロジェクトは仏人デザイナー、クリストフ•ゲルニョンによるもの。「レストラン業界の事をとても心配していた。そこでリスクなく和やかにテーブルを囲めるバイザーを考案した。」と話す。

アイディアの元となったのはアジアのコンセプトストアで見た音楽を静かに聴く為のカバーがついたソファーだという。

f:id:Rio_Ohashi:20200515062457j:image
現在のところPlex’Eatはまだ企画段階だがすでにある実業家から彼に商品化の可能性についての問合せがあったそう。

未だ再開日がはっきりしないレストラン業界だが目下、客を再度呼びこむ為に必要な衛生対策に取り組んでいる。

シェフ達がこのプロジェクトに心動かされる時が来るかもしれない。

今のところパリの友人からはひどい、ロマンティックじゃ無いと非難轟々だけれども。

 

 

写真©Christophe Gernigon Studio

文: Rio Ohashi

 

🗼をポチッと頂けるとブログランキングに点数が入ります。よろしくお願いします。

🇫🇷現地より〜フランスの外出禁止令が本日解除

5月10日。55日間のフランスの外出禁止令が終わる日の前夜、夕方から振り続く雨はますます強くなっていた。すっかり習慣となった20時の医療者達へのエールも今日は雨音にかき消されて聞こえない。外を見ると街路樹が波打つように揺れ大粒の雨が真横に降っている。沢山の人命と日常を奪っていったウイルスなど全て洗い流したい、そんな人々の思いが乗り移ったかのような雨だった。
 
3月14日、マクロン大統領が国内全ての飲食店の無期限営業停止を命じた際に”移民は解雇されるのでは”と不安がよぎったが一時的失業手当を支給するという国の補償により救われた。
 
思えば今回の件での仏政府は国民の不安が大きくなる前に先回りで保証を打ち出してきた印象を受ける。先の見えない不安というの段階的に大きくなっていくものらしく、素早い対策と補償は人々安心感を与えてくれたと感じる。
 
5月11日の明日から大型デパートや飲食店を除きほぼ全ての会社やショップが再開する訳だが今後パリのレストランに人が戻って来るのにどれくらい時間がかかるのだろう。僕自身、開業を目標に飲食業に従事しているのでそこが一番気になるところだ。
 
再開してもきっとしばらくはテラス席に人が集中するのだろう、そう思って携帯ニュースを見ていると思わず”オッ”と声が出てしまう記事が目に飛び込んできた。タイトルには“この夏、パリの30の主要な道路がおっきなレストランになるよ!”とある。

f:id:Rio_Ohashi:20200511103156j:image
https://www.atabula.com/2020/05/09/les-30-rues-parisiennes-qui-pourraient-devenir-un-grand-restaurant-cet-ete/
 
パリ市長の粋な計らいとも言うべきか飲食店やシェフ達を守る為、パリ市内の人の集まる30箇所の道路を通行止めにしてテーブルを並べレストランにする予定のようだ。もちろんレストランの道路使用料は無料だ。

これなら室内感染の不安も払拭出来ていつもと違う雰囲気を演出できる。夏は23時くらいまで明るいのでテラス大好き仏人がアガる要素満載である。パリジャンを呼ぶには「ここで食事してる私イケてる」感の演出は必須と聞いた事があるが、レストランを助けるという大義名分と期間限定の特別テラス席がうまく刺激して人が集まるのではないだろうか。
 
お客様の笑顔に再会できる希望と払拭仕切れない一抹の不安を抱えつつ、市長の策がパリに人が戻ってくる起爆材の一つとなる事を期待したい。
太陽に照らされる仲間とお客様の笑顔を楽しみに、パリは今日も「たゆたえども沈まず」⛵️

 

🗼をポチッと頂けるとブログランキングに点数が入ります。よろしくお願いします!

 

 

🇫🇷外出禁止令の延長について

20時になると急に外が賑やかになる。
もうすっかり日課となったベランダから医療従事者へのエールを送る時間だ。
 
外出禁止令が出てからというもの人もいなけりゃ車も走っていないのでパリの空気の二酸化炭素濃度は40年前に戻ったらしい。おかげで一日中野鳥の声が鳴り止まない。
20時になると急に皆がベランダに出てピューピュー口笛を吹いたり、鍋を叩いたり、爆竹を鳴らしたりするので町中の鳥がびっくりして一斉に空に舞い上がる。
 
Iphoneを手に取るとマクロン大統領の会見が始まっていた。今晩今後の外出制限について発表があると決まっていた。すでに2万人の聴衆者がFB越しに見ているようだ。
 
①外出制限は5月11日まで延長
予想されていた通り、外出禁止令は延長された。5/11以降も高齢者や脆弱な人は自宅滞在を継続するようにとの事。5/11までに医療機関はもちろん全ての国民にマスクが行き渡り、検査が可能な体制にするようだ。
 
②同日に教育機関を再開、大学は夏以降。
5月11日より大学を除く全ての教育期間が再開される。
 
③レストラン、バー、美術館、映画館、劇場などは7月中旬再開予定。
ホテルやレストランなどのパブリックな場所、施設等は5月11日よりさらに2ヶ月の時間を置き7月中旬より営業再開。
 
つまりマスクや検査体制が整ってからの2ヶ月後。仕事復帰が更に延びると聞いては流石に落胆したものの、少しホッとした。イタリア、スペインに挟まれたフランスで世界中から観光客の来るパリのレストランで働いてる僕にとって、5月の営業再開が万全の状態と言えるのか疑問に思っていたからだ。
 
f:id:Rio_Ohashi:20200414101041j:image


”危機を前にユマニテ(人間性)やソリダリテ(団結心)がより強固となり、新旧のイデオロギーの融和の先に素晴らしい未来が来るように皆で努めましょう。” そんなような言葉でマクロン大統領は締めくくった。
(うん、難しい。)
 
 
イデオロギーなんてよく分からないけれどほんの小さな事、例えば毎晩窓から拍手をする親子や大行列のスーパーでお年寄りを先に通す道が出来た事、日曜日にドアノブにかかっていたイースターの卵形チョコなんかはとっても僕の胸を温かくしてくれる人間味のある好意で、

「じゃあ今僕は人に何が出来るだろうか」

とか考える訳です。

 

つづく
 
パリ生活日記ブログ
https://paris33.hatenadiary.com
 
フランス🇫🇷生活ブログランキングをチェックhttps://blog.with2.net/sp/?cid=3272